Creative Intersection

ものづくりの交差点

〈bororo〉ディレクター・赤地明子 × 詫間宝石彫刻・詫間康二

DIALOGUE

〈bororo〉ディレクター・赤地明子 × 詫間宝石彫刻・詫間康二

自由な発想と熟練の技で
唯一無二のアートピースを。

about Creative Intersection

デザイナー × 職人、デザイナー × 素材、職人 × 技術……ものづくりは常に人と人、人と技術や素材といったコラボレーションの集積です。さまざまなかけ算から生まれるクリエイティブが交わる場所を、対談やインタビューを通して紹介します。

自然界に存在する、あるがままの天然石のかたちに美しさを見いだし、ジュエリーで表現する〈bororo〉。手がけるのは、旅する宝石商として世界中から天然石を集めるディレクターの赤地明子さん。一方、多種多様な石の個性を熟知し、最大限に魅力を引き出す、詫間宝石彫刻の伝統工芸士、詫間康二さん。自由な発想と熟練の技、2人の出会いがもたらす、共鳴し合うものづくりとは。

2021.11.19

Text&Edit: Chizuru Atsuta
Photo: Norio Kidera

  • 詫間康二(以下 詫間): 最初の出会いは12年くらい前、赤地さんからの飛び込み電話でしたよね。「サファイアに穴開けてくれませんか?」って。
  • 赤地明子(以下 赤地): そうそう、他で全部断られて困ったなと思っていたら、ちょうどそのときブログで康二さんが“穴開け”のことを紹介していたんですよね。それですぐ問い合わせて。超音波で開ける穴開け機はドリルと違って、時間はかかるけど硬い石でも開けられると紹介されていて。思い出のある石だったので、どうなるかと心配してたのですが、ものすごい綺麗に穴開けされて戻ってきたのを覚えています。
  • 詫間: その頃は、山梨の宝石彫刻をどうやったら知ってもらえるか模索していた時期。出始めのブログをやってみて、この技術をどう発信していけばいいかとか、とにかくいろいろやってみようと試行錯誤してた頃でしたね。
  • 赤地: 届いてお礼の電話したら、「ちゃんと引っ掛かるように作ったから」って。ピアス用のピンを抜けづらいように対応してくれたことにびっくりしました。今まで頼んでいたところでは正直そこまでの精度ではなかったので。康二さんはパーツが綺麗に入ることまで考えて穴を開けてくれて、細やかで丁寧な対応にとにかく感動したんです。それから交流するようになりましたね。
  • 詫間: なんかね、赤地さんの“ノリ”が面白いなと思ったんですよ。宝石商をされてて、世界中を旅しながら石を買ってるという話。普通の人なら絶対行けないような採掘場にも行ってて、旦那さんが映像作家だから写真がまたどれも楽しくて、なんだこれ?!って、もっともっと見たいと思いました。自分も海外へ石の買い付けには行ってたけど展示会が多かったので、すごい刺激になりましたね。
  • 赤地: ニューヨークで宝石の資格を取った後に、夫と2年半かけて世界を周ったときですね。あのときは、全然ツテもないけど産地の名前だけは知っていたので、とりあえず現地に行ってみて、どうやったら石のある場所に行けるのか探しながら、いつのまにかたどり着く、みたいなことばかり。私自身、観光名所に行くより、名もない小さな町に滞在して、その土地の文化や宗教、暮らしを感じられることがなにより楽しかった。それにジュエリーでなくても魔除けだったり、お守りだったり、その人にとって意味のあるものをつけることを大事にするのはいいなって思って。人が生きる中で身につけてきたものは素敵だなと感じて、自分もそういうジュエリーを作りたいと思うようになりました。
  • 詫間: 天然石をそのままジュエリーにするのは今でこそ増えたけど、当時はまだなかったんですよね。原石のまた違った面白さや魅力を引き出したいっていう気持ちは赤地さんととても近いものを感じました。石をリングにセッティングする“石取り”という作業で、まずは石の塊の内包物を見る。ここの茶色は生かした方が面白いよねとか、共感できることが多い。
  • 赤地: 加工されると、やっぱりその原石そのものの良さというか、自分が考える“美しさ”みたいなものは無くなってしまう。一般的な宝石のイメージは、不純物がなく、クリアでキラキラと光っているものが素敵だと言われる。原石だったときに、ちょっとした凹みや歪み、色ムラが可愛いと思っていたのに、その辺りは磨かれてしまい、石が持ってる本来の個性みたいなものが消されて均一になっていくのはちょっと悲しい気持ちになってしまうんですよね。
  • 詫間: だから、打ち合わせしていると「ここにこういうインクルージョン入ってたら、めちゃくちゃ面白くない?」「この気泡はなんでこの泡になったんだろうね」みたいな話ばかりですよね。それはもちろん一つひとつにそれぞれ違う理由があるからなんだけど、何万年という間に、たとえば地震があったり、地殻変動が起きたりしたのかなと思いを馳せると、とにかく壮大なことになる。そんな天然石の小宇宙を覗くというのが、〈bororo〉の「ロックリング」なんです(笑)。
  • 赤地: 完璧なPRをありがとうございます(笑)。そう、「ロックリング」は、水晶の結晶を模した形と、その結晶が川で流されて川石になったというイメージで有機的な丸みを持つ2つのシリーズがあります。私は「石を肌に載せる」っていうくらいを目指してて、デザインをできるだけ削ぎ落とす工夫を施すようにしている。究極デザインをしないで、自然物を目指す、無作為を目指すという感じでしょうか。でもデザインを削ぎ落とすためには、石に細工をしないと実現できない。絶対的な技術が必要なんです。石と地金のシームレスなデザインは、日本に古くから伝わる貴石彫刻の技法「同摺り」によるもの。やっぱり詫間さんが手がけた実物を見ると全然作りが違うなって、いつも感心します。
  • 詫間: 嬉しいですね。僕個人的には、「ロックリング」で使う石もそうですが、10年くらい前からずっと産地にこだわっているところはあります。例えばルビーでもアクアマリンでも、採れた場所がブラジルなのかアフリカなのかでも色味も違うし、色味が違うと呼び名も違う。ベリルという石は緑色だとエメラルド、青だったらアクアマリンと呼ばれています。その土地の土の成分に影響されるから、採れる場所によって個性が違うんですよね。そういうことって案外知られていない。
  • 赤地: 康二さん、産地別の水晶のショットグラスとか独自の作品を作られていますもんね。まだまだジュエリー界って、ルビーだったらこの赤が一番いい、みたいな固定観念がありますが、市場価値とは関係ない、自分の軸で選んだものを作っていこうというのはお互い意識してやっていることですよね。
  • 詫間: そうですね、もちろんこだわりもあるし、仕事でもあるんだけど、赤地さんも僕も何か面白いことをしたいという気持ち、あるじゃないですか。だから常にそこはお互い“お金に走らない”ってことも大事だなって。たくさん売れることが一番の目標ではないから。だから僕、他のブランドやデザイナーからこの石でなにか作ってくださいっていう依頼があってもめったに切らないんです。よっぽどいい結果になるってわかるときだけ。お互いにとっていい時に切りましょう、という感じがいい。石を丁寧に扱いたいというか、そこは大事にしてますね。
  • 赤地: 本当にそう。石って簡単に手に入らないから、簡単には切れない。今でも思うんですけど、私たちが出会ったときに、ちょうど私の「天然石でこんなデザインを作りたい」という思いと、康二さんの「伝統技法で新しいものを作りたい」という思いが合致したというか、新しいことを始めるタイミングが図らずも一緒だったのがよかったなと。根幹を共有できているから変な方向にはいかない。〈bororo〉を一緒に育ててもらっている感じなので、これからも自由な発想とピュアな気持ちをもって一緒にやっていけたらいいなと思っています。

Profile

赤地 明子さん Akiko Akachi bororoディレクター

システムエンジニアを経て、20代後半でNYに渡り、GIA(米国宝石学会)で宝石について学ぶ。同時期に世界の鉱山や石の産地を巡る旅を繰り返し、現地との繋がりをつくる。また、スリランカで宝石のカット技法を習得。石の販売からビジネスを始め、追って2009年に自身のジュエリーブランドを立ち上げる。
Instagram: @bororo_official

詫間 康二さん Koji Takuma 詫間宝石彫刻代表

1973年生まれ
伝統工芸士,ジュエリーマスター
高校卒業後、貴金属メーカーに就職。その後実家を継ぐ。
Instagram: @kojitakuma

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  • Text&Edit: Chizuru Atsuta
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